記念すべきこと

掴むもの無くて寒夜に沈みたり   独楽

mixiのコミュニティで投稿したこの句を、管理者の人がほめてくれた。
自分が作った俳句を他人にほめてもらったのは、生まれて初めてのことである。素直にうれしい。


実はこの句、最初は

見上げたる夜の底にて寒に入る

という全く似ても似つかぬものだったのだが、投稿する寸前で「何だかピンとこないぞ」と思って、投稿フォームの中で推敲を始めることになってしまった。
「寒の入り」という季語を使いたかったのと、帰宅中に夜空を見上げた時に何かの底にいるようなイメージを感じたので、それを合わせて句にしてみたのだが、どうもぎくしゃくしている雰囲気がある。散々考えた末に「寒の入り」と「夜の底」というイメージが連携していないことが判明して、ならばと句全体のイメージをやや強くコントロールする「寒の入り」をあえて捨てることに。「夜の底」というイメージを重視することにした。でも「寒」は使いたかったので、「寒夜」という季語を導入。これでかなりイメージを圧縮することができた。
そこからさらに、「底にいる」というイメージをもっとリリカルにできないものかと、さらにひねる。上に目的物を作って相対的に下方を意識させるという意味で「夜の水面」という表現を考えたりしたのだが、夜の海にいるみたいな誤解を生むので、却下。さてどうしよう……と腕を組んで背中を丸めて沈思黙考することしばし。沈思……沈む。ふむ、これでいこうか。ということで「寒夜に沈む」という措辞が出来上がり。
あとは、最近仕事で感じている自信の無さ(苦笑)から「確実なものを持たない」→「掴むものがない」というイメージを構築して、手がかりがないまま不安げに夜の底に沈んでいくような雰囲気に仕立て上げた、という次第。
最初の形からここまで来るのに約1時間半。さくっと投稿して終わるつもりが、予想外に時間を費やしてしまった。だが、時間をかけて推敲したからこそ人に認めてもらえる句になったのだろう。真剣に句を練れば、相応の結果が出る。ひとつ、自信になったような気がする。


とはいえ、最近俳句に費やす時間がやたらと長くなってしまって、とうとう睡眠時間が犠牲になり始めた。それだけ俳句が面白くなってきたということでもあるが、さすがに少し自制をせねばならないようだ。時間を計画的に使って、俳句以外の生活に影響が出ないようにしなければ……。